令和5年10月1日から、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が導入されます。適格請求書等保存方式の下では、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」等の保存が仕入税額控除の要件となります。

引用元: 国税庁HP 『消費税の仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式が導入されます 平成30年4月国税庁(令和2年 6 月改訂)』https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/300416.pdf

インボイス制度導入に際し、一時SNS上では「個人事業主は大ピンチ!」などさまざまな憶測が飛び交いました。
実際、インボイス制度は個人事業主の方にどのような面で影響があるのでしょうか。

「インボイス」とは?

インボイス 【invoice】
① 送り状。特に貿易において、荷送人が発送貨物の品名・数量・価格・代金の支払い方法、その他売買・船積み・保険に関する事項などを記して、荷受人に送付する明細書。貨物通関手続に必要になる。輸出送り状。
② 売上金額や税額が明記された伝票。
引用元: 『三省堂 大辞林 第三版』

インボイスとは、もともと荷物の送り状のこと。一枚の紙に品目ごとの金額や、税率・税額を明記することから「税額票」としての役割も担います。
これは事業者の消費税の加重取得や脱税など、不正行為の防止に繋がります。

「インボイス制度」とは?

インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」といいます。
また漢字が出てきてしまいましたね。単語を一つずつ見ていきましょう。

「適格請求書」とは?

正確な適用税率や消費税額等を伝える請求書です。今までの請求書に加え、国に指定された下記6項目を記入します。

  1. 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率の対象となる場合はその旨)
  4. 税率ごとに合計した税抜又は税込対価の額及び税率
  5. 消費税額等
  6. 書類の交付を受ける者の氏名又は名称

出典:国税庁HP『消費税の仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式が導入されます 平成30年4月国税庁(令和2年6月改訂)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/300416.pdf

そして「適格請求書」を発行するには、課税事業者でなければなりません。

なぜなら項目1にあるように、登録番号を記載しなければならないからです。

登録番号は「適格請求書発行事業者」への申請によって取得することが出来ます。そして、申請することが出来るのは課税事業者に限られます。

「適格請求書発行事業者」とは?

税務署長に申請し、登録を受けた事業者のことです。前項で説明したとおり、課税事業者に限られます。(登録申請は2021年10月1日から受付開始)

発注側である事業者は「適格請求書等保存方式」つまり、この適格請求書を保管することによって、仕入税額控除を受けることが出来るのです。仕入税額控除に関しては下記で具体的に説明します。

しかし納税をしていない免税事業者の場合、「適格請求書発行事業者」への申請をすることも、登録番号を取得することも出来ません。

「免税事業者」とは?

課税期間の2年間において、課税売上高が1,000万円以下であれば、消費税を納める義務がなくなります。
例えば、ある免税事業者が商品を1,000円(税別)で販売し、1,100円の売上を得たとします。1,000円を売上とし、100円を納税していると思いきや、実はそうではありません。

免税事業者は消費税を納める必要がありません。
つまり、消費税分で回収した金額を、自分の収入にして良いのです。

ということは、消費税が増税したことによって免税事業者は得をしていると思いませんか?
今まで8%利益計上していたのを、増税によって10%の利益計上ができます。つまり2%の利益追加されることになります。これが「益税」です。

インボイス制度は、増税によって免税事業者が自動的に得をしてしまう「益税」を防ぐ側面もあるのです。
そう考えると、インボイス制度は理にかなった制度であるようにも思います。

個人事業主が心配される理由

インボイス制度によって、免税事業者である個人事業主に直接納税の負担がかかるわけではありません。1,000万円以下の事業者が該当する免税制度は変わらないからです。

では、なぜ個人事業主が苦しくなるという表現がされたのでしょうか?
それは、依頼主である事業者の消費税納税額が増えるためです。

このことから発注者は仕入先として免税事業者を敬遠し、仕事を依頼しなくなってしまうのではないか、と懸念されました。

逆に、適格請求書発行事業者が発行した適格請求書があれば仕入税額控除が使えます。

では、適格請求書がないとどうなるのでしょうか。
具体的な数字で見ていきましょう。

たとえば、A社は100円で商品を仕入れ、お客様に1,000円で販売しました。
仕入先に払った現金は、消費税10円を加えた110円です。
お客様から預かった現金は、消費税100円を加えた1,100円です。

①仕入先が課税事業者である場合
仕入先は自社で課税事業者として10円を納税するため、A社は納税する必要がありません。これを仕入税額控除といいます。
ここでA社が消費税10円納税すると、二重払いになってしまいますね。
納税額は100円-10円の90円でした。

②仕入先が免税事業者である場合
ところが免税事業者は10円を納税していません。そのため仕入先の分も含め、
100円+10円の110円を納税することになります。

このように、発注側には仕入税額控除がなくなり、仕入先の納税額までを負担することで、納税額が増えてしまうことがわかります。免税事業者が払っていない分を含め、正当な額の消費税を納税しなければなりません。

受注側としてできること

免税事業者でも課税事業者になることが可能です。「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで課税事業者となります。
適格請求書を発行することができれば、今まで通り仕入税額控除ができるため、発注者を安心させることができるでしょう。

デメリットとして、いままで免除されていた消費税額を収めなければいけないため、売上が減るという大きな点があります。

一方、課税事業者にならない方は、単純に仕事が減ってしまうのではないかと心配ですよね。

今後は引き続き、取引先に選ばれ続ける品質を維持することや、スキルアップによって他事業者との差別化をはかることが重要となるでしょう。

発注側としてできること

免税事業者に対する経過措置は6年間設定されています。
その間に取引先の意向をヒアリングしたりや、仕入先が課税事業者に申請する予定があるかどうかを確認しながら、焦らずに予算経費を見直していきましょう。

「免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置」

期間 割合
2023年10月1日~2026年9月30日 仕入税額相当額の80%
2026年10月1日~2029年9月30日 仕入税額相当額の50%

「参考:国税庁 適格請求書等保存方式の概要ーインボイス制度の理解のためにー(令和2年6月)」をもとに、FPサテライト作成https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0020006-027.pdf

今まで通り仕入を行った上で負担が増大するようであれば、仕入先を比較検討する必要も出てくるでしょう。

まとめ

いかがでしたか?最後にもう一度、この一文を見てみましょう。

令和5年 10 月1日から、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が導入されます。適格請求書等保存方式の下では、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」等の保存が仕入税額控除の要件となります。
引用元: 国税庁HP 『消費税の仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式が導入されます 平成30年4月国税庁(令和2年 6 月改訂)』

インボイス制度のイメージが掴めたでしょうか。ご自身にどのように影響するかを把握し、制度導入後も焦らず対応していきましょう。