育休や時短勤務をどうするか考えるとき、まず気になるのは「収入がいくら減るか」ではないでしょうか。
マイナビ転職「育休取得と満足度に関する実態調査(2026)」によると、育休取得への不安として「収入減少」を挙げる人は36.8%ともっとも多く、家計への影響は重要な判断材料です。
ただ、「どちらが休んだほうが家計に得か」だけで決めてしまうのは注意が必要です。働き方の選択は、一時的な収入だけでなく、その後の昇給や昇進、夫婦の家事・育児の負担にも関わってきます。
この記事では、育休・時短による「収入」「キャリア」「家事・育児の負担」への影響を整理し、夫婦で働き方を決めるときの考え方を紹介します。
育休・時短で収入はどう変わる?
育休や時短勤務を考えるなら、まずは家計への影響を数字で把握しておきたいところです。育休中の給付金や、復職後の時短勤務による収入の変化を知っておくと、具体的なイメージが持ちやすくなります。
育休中の収入はどれくらい変わる?
育児休業給付は、育休開始から180日目までは休業開始時賃金の67%、181日目以降は50%が基本です。
また、2025年4月からは、一定の条件を満たす場合に「出生後休業支援給付金」が上乗せされる仕組みも始まりました。夫婦ともに一定期間の育休を取得するなどの条件を満たすと、最大28日間、育児休業給付と合わせて給付率が80%となります。
育休中は給与そのものが支払われなくなる一方、こうした給付があるため収入はゼロにはなりません。
さらに、一定の条件を満たせば健康保険料や厚生年金保険料も免除されます。
育休を考えるときは、額面給与ではなく、給付金と社会保険料免除まで含めた実際の手取りで考えることが大切です。
出典:厚生労働省「育児休業等給付について」
どちらが育休を取ると、世帯収入はどう変わる?
夫の月給30万円、妻の月給25万円の夫婦を例に考えてみます。
妻が育休を取得した場合、最初の180日間の育児休業給付は25万円×67%で約16.8万円が目安です。
一方、夫が取得する場合は30万円×67%で約20.1万円になります。
育休中の給付額そのものは、給与が高い夫のほうが大きくなります。一方で、休業前の給与との差額も大きくなるため、育休中の世帯収入だけを見れば、年収の低いほうが育休を取ったほうが減少幅は小さくなります。
つまり、「育休中の家計をできるだけ維持する」という目的だけで考えれば、年収の低いほうが休むほうが合理的です。
ただし、この判断だけで決めてしまうと、その後のキャリアや収入の伸び方まで含めたときに、結果が変わる場合もあります。
実際の家計への影響は、育休期間や給付金、社会保険料、税金などによって変わるため、夫婦それぞれの年間手取りで比較してみるとよいでしょう。
復職後の時短勤務ではどう変わる?
育休を終えて復職した後も、時短勤務を選べば収入は変わります。
たとえば、フルタイム時の月給が30万円で、時短勤務によって22.5万円になったとすると、月7.5万円、年間ではおよそ90万円の減少です。
ただし、2025年4月からは「育児時短就業給付金」が始まっており、一定の条件を満たせば、2歳未満の子を育てながら時短勤務をする場合、賃金の10%相当の給付を受けられます。
先ほどのケースなら、「22.5万円×10%=約2.25万円」が上乗せされ、賃金と給付を合わせて約24.75万円相当となります。
時短勤務では、給与が下がることだけを見るのではなく、時短によって減る給与と受け取れる給付を合わせて、実際の家計への影響を考えることが大切です。
育休・時短はキャリアにどう影響する?
育休や時短による影響は、休んでいる期間の収入だけではありません。
復職後の働き方や、昇給・昇進、担当する仕事などによって、その後のキャリアの伸び方が変わる可能性があります。
育休取得率が上がっても、取得期間には男女差がある
厚生労働省の調査によると、男性の育児休業取得率は50.9%まで上昇し、過去最高を更新しました。
女性の88.3%にはまだ届かないものの、前年度の40.5%から大きく上昇しています。
一方で、取得率だけでは見えない部分があります。
育休取得日数は、男性が平均63.5日だったのに対し、女性は407.4日で、男性の平均取得日数は女性のおよそ6分の1です。
男性の育休取得率が上がっていても、夫婦の育休の分担には偏りがあります。
育休を取得するかどうかだけでなく、誰がどのくらいの期間休むのかまで考える必要があります。
出典:厚生労働省「令和7年度 雇用均等基本調査」
出典:マイナビ転職「育休取得と満足度に関する実態調査(2026)」
子育て前後の年収の伸びには差がある
第一子出産前後の女性の就業継続率は、およそ7割程度まで上昇しています。
出産を機に仕事を辞める女性は以前より減っていますが、「仕事を辞めなくなったこと」と「キャリアが同じように伸びていること」は別の話です。
子育て前と現在の年収を比較すると、男性は平均でプラス80.3万円だったのに対し、女性はプラス6.7万円という調査結果があります。
この差がすべて育休や時短勤務によるものとは言えません。年齢による昇給や転職、管理職への昇進など、さまざまな要因が関係しているからです。
ただ、時短勤務や残業制限、担当業務の変更、昇進時期の後ろ倒しなどによって、子育て期の働き方がその後のキャリアの伸び方に影響する可能性は考えておく必要があります。
出典:マイナビ転職「育児離職と仕事と育児の両立の男女差実態調査(2026)」
育児を理由とした離職もある
時短や育休よりも大きなキャリアの中断が、離職です。
育児との兼ね合いが原因で退職した経験がある人は、子育て中の正社員の23.3%にのぼります。
男女別では、男性が19.4%だったのに対し、女性は27.3%でした。
離職の理由にも男女で傾向の違いがあります。
女性では「子どものお迎えに間に合わない」「自宅や預け先に近い職場で働くため」といった理由が上位でした。一方、男性では「今の給与ではやっていけない」「もっと給与や手当の充実した職場で働くため」など、給与面の理由が上位を占めています。
育児との両立が難しくなる理由は、収入だけではありません。勤務時間や勤務地、職場の制度など、「今の仕事を続けられるかどうか」に関わる要素もあります。
実際、子育てをするうえでの職場の働きやすさには、「上司・同僚との人間関係」や「休日出勤の少なさ」なども関係していることが調査からわかっています。
だからこそ、育休や時短を考えるときは、「どちらが休むか」だけでなく、「どちらが育児をしながらでも働き続けやすい環境にあるか」という視点も大切です。
出典:マイナビ転職「育児離職と仕事と育児の両立の男女差実態調査(2026)」
夫婦でどう決める? 3つの考え方
育休や時短の選択に唯一の正解はありません。夫婦の収入、仕事内容、今後のキャリア、家事・育児の分担によって、適した働き方は変わります。そのうえで、判断するときに意識したいのが次の3つです。
「今の収入」ではなく「これからの収入」まで考える
夫の年収600万円、妻の年収400万円という夫婦で考えてみます。
短期的な世帯収入だけを見れば、年収の低い妻が育休を取ったほうが減少幅は小さくなり、その判断は家計だけを考えれば合理的です。
ただし、この判断を繰り返すことで、妻の昇給や昇進が後ろにずれ、年収差がさらに広がる可能性があります。
すると次の育休でも「妻のほうが年収が低いから、妻が休んだほうが家計への影響が小さい」という判断をしやすくなります。
つまり、現在の年収差が、将来の年収差や働き方の偏りにつながる可能性があるということです。
育休や時短を考えるときは、現在の年収だけでなく、5年後・10年後にどちらがどれくらい昇給しそうか、今後目指したいキャリアがあるか、時短や休業によってどんな仕事の機会を失う可能性があるかまで考えてみることが大切です。
「これから」の働き方を先に考えておく
育休や時短を考えるときは、5年後、10年後に夫婦それぞれがどんな働き方をしていたいかも、あわせて考えておきたいところです。目の前の収入や役割分担だけで判断すると、気づけば一方だけが長期間キャリアを中断している、という状態になりかねません。
実際、正社員女性の9割近くがキャリア継続を希望する一方、男性の3割超は妻の理想の働き方として「パート・アルバイト」など正社員以外を望んでいるという調査結果もあり、夫婦の間で描く働き方にズレが生じやすい実態があります。
大切なのは、「今どちらが休むか」だけを決めるのではなく、「これから夫婦それぞれがどんな働き方をしたいか」を先に共有しておくことです。
目の前の収入や、そのときどきの都合だけで決めていると、気づけば一方だけが長期間時短勤務を続けていた、ということにもなりかねません。
育休や時短の取り方を固定するのではなく、子どもの成長や仕事の状況に応じて、夫婦の働き方を入れ替えたり、見直したりする前提で考えておくとよいでしょう。
出典:マイナビ転職「育児離職と仕事と育児の両立の男女差実態調査(2026)」
「家事・育児の負担」も判断軸に
収入やキャリアと同じくらい見落とされやすいのが、日々の家事・育児の負担です。育休や時短の話は「誰が働くか」に注目が集まりがちですが、実際の家庭内負担は、それとは別の要因でも偏りやすくなっています。
多くの家庭では、出産直後から育児に関わる時間が長い妻のほうが、家事・育児のスキルを身につけるのが早く、結果として夫婦間で家事・育児のスキルに差がつくケースが多いです。
この差があると、たとえ育休や時短の期間、あるいは時間の配分を夫婦で半分ずつにしても、実際にできることの量や質には差が出やすくなります。
この差を縮めるには、夫が家事・育児にどこまで慣れておくかという観点も欠かせません。育休期間中や復職前の時短期間は、家事・育児に慣れるための期間として使うこともできます。
一方で、この差を無理に埋めようとせず、代わりに夫がより多く稼ぎ、家事代行やベビーシッターなどのサービスを頼る、という形で乗り切る家庭もあります。
どちらを選ぶかは家庭ごとの判断ですが、この差をそのままにして「時間は分担している」とだけ考えていると、実際の負担の差に気づきにくくなる点には注意が必要です。
夫婦で話し合う際のチェックポイント
ここまで見てきた点について、実際に夫婦で話し合うときのポイントと、その注意点を項目ごとに見ていきます。効果的な話し合いを行うため、ポイントをしっかり抑えておきましょう。
1.収入について
育休を取る期間ごとに、給付金や社会保険料免除を踏まえた「1年間の手取り」を、実際の金額で書き出してみます。給付金の振込みには数か月かかることが多いため、その間の生活費をどう準備するかもあわせて確認しておきます。
「給付率67%」だけで判断すると、実際の収入減を見誤る可能性があります。額面ではなく、手取り額で比較することが大切です。
2.家事・育児の負担について
普段の家事・育児を項目ごとに洗い出し、どちらがどれだけ担っているか、得意・不得意を確認します。差が大きい項目については、育休中にどこまでできるようになっておくか、具体的な担当と目標を決めておきます。
「時間は半分ずつ」で合意しても、実際にできることの量や質の差は埋まりません。時間の分担だけで終わらせず、実際の負担量まで踏み込んで確認します。
3.キャリアについて
5年後、10年後にお互いどんな働き方をしていたいか、昇進や専門性を伸ばしたいタイミングを共有しておきます。
「今回はどちらが休むと得か」という目先の判断だけを繰り返すと、気づかないうちに一方にキャリアの中断が集中してしまいます。1回の決定で終わらせず、子どもの成長のタイミングごとに話し合う機会を持つことが大切です。
この3つは、どれか一つだけを見て判断すると、別のどれかで無理が生じやすくなります。収入面で最適に見える選択が、家事・育児の負担やキャリアの面では偏りを生んでいないか、あわせて確認しておくとよいでしょう。
世間一般ではどうするかではなく、自分たちはどうしたいのかという軸で考えることが大切です。
まとめ
育休や時短勤務を考えるとき、「どちらが休んだほうが家計に得か」は重要な判断材料です。ただ、それだけで働き方を決める必要はありません。
収入・家事育児の負担・キャリア。この3つを並べて考えることで、目先の家計だけではなく、夫婦それぞれが将来どんな働き方や暮らし方をしたいのかまで含めて、育休や時短の取り方を考えられます。
育休や時短は、どちらの収入を減らすかだけを決める話ではなく、夫婦がこれから、どんな働き方と暮らし方をしたいのかを考える機会でもあります。
