年末のお取引先へのご挨拶を兼ねた外回りや年末年始休暇中の帰省など、人の移動が多くなるこの時期。
社員がケガや病気に見舞われるリスクも増える時期でもあります。
厚生労働省によると、平成30年の労働災害による休業4日以上の死傷者数は127,329人(対前年比5.7%増)となっています。また、ここ3年連続で、この数が増加傾向となっています。
(参考:厚生労働省「平成 30 年における労働災害発生状況について」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei11/rousai-hassei/dl/18-kakutei.pdf )
社員から労災保険の相談を受けた時、また社員が勤務中や通勤中に事故等に見舞われた時に素早く対応できるよう、この機会に「労災保険」について再確認してみましょう。
労災保険とは
労災保険とは、雇用されている労働者の方が勤務中や通勤途中に事故等によりケガを負ったり死亡された場合に保険給付される社会保険制度の一つです。
厚生労働省により、労災保険とは
労働者災害補償保険法に基づき、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするために保険給付を行い、併せて被災労働者の社会復帰の促進、被災労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図ることにより、労働者の福祉の増進に寄与することを目的としています。
労働基準情報:FAQ (よくある質問) - 労働基準行政全般に関するQ&A
「労災保険制度の概要について教えてください。」
と定義されています。
労災加入対象
原則、従業員を1人でも雇用している事業所は必ず、労災保険に加入しなければなりません。
また、加入対象となる労働者は正社員やパート、アルバイトといった雇用形態に関係なく、その事業所で働くすべての労働者、となります。
「請負」という形で業務を請け負っている労働者や執行権を持つ役員、経営者は加入対象外となります。
ただし、役員でも労働に従事して、その企業から賃金を受け取っている場合は加入対象となります。
事業主の責任義務
事業主は、事故を未然に防ぐために労働安全衛生法に基づく安全衛生管理責任を果たさなければなりません。
この責任を行っていない場合、事故発生に関わらず刑事罰になることもあります。
また、事故が発生したにも関わらず、労働基準監督署に報告していなかったり、虚偽の報告をした場合、刑事責任が問われることがあるほか、刑法上の業務上過失致死傷罪等に問われることがあります。
事業者は、労働災害等により労働者が死亡又は休業した場合には、遅滞なく、労働者死傷病報告等を労働基準監督署長に提出しなければなりません。
労災保険の保険料負担
労災にかかる保険料は、全額事業主負担となります。社員の方が自己負担することはありません。
業務外の病気・ケガ等は健康保険から給付を受けることになり、保険料の負担は事業主と社員の折半となります。
労災保険の給付方法
業務上の事由又は通勤による負傷、疾病、障害、死亡時の給付
業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等で労災保険を給付できることになった場合は、会社から労働基準監督署長に申請を行う事で給付されます。
しかし、労災保険の給付を受けられる負傷や疾病、障害などにより労働者が医療機関にかかった際、健康保険を使って医療費の支払いを行ってしまうと、医療機関によっては一時的に医療費の全額を労働者が負担する必要があります。
そのため、労災保険の給付を受けられる負傷や疾病、障害などで医療機関にかかった場合は、労災保険を使う事を医療機関に伝え医療費は支払わないよう、労働者への事前周知が必要です。
傷病による療養時の給付
療養で休業することになった場合、療養費は全額給付され、休業4日目から休業1日につき休業給付基礎日額60%が支払われます。
休業1~3日目の休業補償は、労災保険から給付されないため、労働基準法で定める平均賃金の60%を事業主が直接労働者に支払う必要があります。
療養開始から1年6ヶ月が経過しても、傷病が治らず重い場合傷病給付は打ち切りとなり、代わりに傷病年金給付となります。
給付される年金額は、傷病等級によって以下の通り変わります。
- 傷病等級第1級の場合:年金給付基礎日額 313日分
- 傷病等級第2級の場合:年金給付基礎日額 277日分
- 傷病等級第3級の場合:年金給付基礎日額 245日分
その他、傷病特別支給金(一時金)や傷病特別年金が支給される場合もあります。
労災になるパターン・ならないパターン
労災給付は、労働基準監督署が業務災害または通勤災害を労災認定とした場合に給付されます。
どのような場合に労災認定されるか、以下に具体例をあげます。
労災になるパターン
以下のような状況で負った傷病や疾病、障害、死亡は、労災として認定されます。
- 仕事が忙しく休めず体調を崩したり、亡くなってしまった。
- 工事中に怪我をした。
- 仕事中にトイレに行ったときに怪我をした。
- 取引先に向かう途中で怪我をした。
- 通勤時に、コンビニで飲み物を買って会社へ向かっていたところ怪我をした。
- 会社から参加を余儀なくされた親睦会で怪我をした。
労災にならないパターン
逆に、勤務中や通勤中であっても、以下のような場合は労災として認められない事が多いです
- 仕事中に個人的な喧嘩をして殴られて怪我をした。
- 会社からの帰宅時に、彼女と飲み行く途中で怪我をした。
- 社用車でながら運転していて怪我をしてしまった。(自分に非がある場合)
今回は労災保険の制度についてご説明させていただきました。
社員の方々は日々の仕事に専念されていて、労災保険の制度や適用になるパターンなど、きちんと理解されていない方も多いかと思います。
しかし、社員やその家族の生活を守るためにとても大切な制度です。
この機会に、日々の安全対策と労働者災害補償保険法の再確認をし、また社員の方々に制度の内容を説明する場を設けてみるのはいかがでしょうか。